「モビル文学」(英: Mobile Literature)は、自転車による移動と投影技術を文学表現と融合させることを目指した連作です。映像装置に改造した自転車を用いて、各街を舞台に執筆したテキストをその土地の地面に投影しながらサイクリングします。
路面の凹凸や自転車の走行速度、街灯や建物の陰など、都市環境と身体の動きに応じて文字が揺れたり歪んだりすることで、物語そのものが空間や運動の影響を受けながら動的に変化する作品シリーズを、これまで国内外で制作・発表してきました。第一作目を制作した岐阜県大垣市が松尾芭蕉の『おくの細道』の結びの地であることから、芭蕉の旅の精神に倣い、世界各地で本作を展開することを目指しています。
こうした「自転車で街に小説を書く」試みは、メディアアートの文脈にも位置づけられます。1989年にジェフリー・ショーが発表したインタラクティブ作品「レジブル・シティ(The Legible City)」では、展示空間に据え付けたエクササイズバイクを漕ぎながら、建物が文字で形作られたバーチャル都市の街路を走行し、文章を読み解くという体験が提示されました。この伝説的な作品が室内のスクリーン上で仮想都市を走り読むものであったのに対し、「モビル文学」は実際の都市空間そのものをキャンバスに、物語のテキストを直接路上に投影して走る点でユニークです。
志村翔太にとって国内初の個展となる本展では、作家が生まれ育った川崎サウスサイド・多摩川沿いの「こちら側」と、長すぎた修養の間に自宅から眺め続けていた羽田空港が位置する川を隔てた反対岸の「あちら側」を舞台とした新作を発表します。
本展の作品群は、メディアアートの制作を始めたコロナ禍に抱いていた、どこにも行くことが出来なかった絶望感や失ってしまったものへの想いを背景としています。当時ぶらついていた多摩川沿い、川崎と羽田の人工島、実家近くの風景を題材に、コロナ禍後に進学した情報科学芸術大学院大学[IAMAS]で見出した《モビル文学》の手法を通して、自身の記憶や当時の記録と向き合い、これからの人生への熱情を示すものへとリライトしています。それは作家自身の原風景と憧憬の地を文学的に接続する「自己アンセム(自分自身への賛歌)」とも言えるでしょう。
もっとたくさん作品を作りたいし、もっといろんな場所に行きたい。まだまだ知らないことを知りたいし、まだ会ったことのない人に会ってみたい。
そういう未来の明るい可能性と過去の時間が、自転車やテキストという現在的なメディアによって結び付いていきますように。







キュレーション : 對中優
アートディレクション : 瀬川晃
テクニカルサポート:square4
キービジュアル撮影:坂根大悟
撮影記録 : 對中優
制作協力 : 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]・運動体設計、西坂遼
謝辞 : 赤松正行、成枝隆祐、Seryeon Kim、山田光倫、大橋英之、小南菜子、坂根大悟
令和7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業
2026 映像インスタレーション,パフォーマンス